5000文字でなんとなく分かるバレエ『眠れる森の美女』

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バレエの発表会に友人知人を誘いにくい理由の一つに「分かりにくい」というのがあります。最大にして唯一と言ってもいい。

バレエにはセリフがありません。子供向けだったり親切な公演だとあらすじの字幕やナレーションが入ることもありますが、実際あらすじ聞かされたところで

「あらすじは分かったけど、今この場面は何してるところ???」

ってなるんですよね。私もよく知らん作品だとなる。

 

上手な子がたくさん踊るし、ちびっこもがんばっているし、なんとなく見ているだけでも楽しいとは思うけど、せっかく見に来てもらえるならもっと楽しんでもらいたい。

そこで、ずっと踊ってる割によく分かっていない私が私なりにバレエ『眠れる森の美女』の楽しみ方をご紹介したいと思います。

詳しい人が初心者向けに解説しているのではなく、出てるくせによく分かってない私が私目線で見ている『眠れる森の美女』をそのまま書いているだけだということはくれぐれもご留意ください。

 

あと、本番が迫ってきて子どもたちががんばる姿見てたら「全部!!!! 全部みどころです!!!!!😭」となってきたのでだいぶはしょりました。 

 

 

 

そもそもどうやって踊りで物語を表現するのか?

分かりやすい例として『ジゼル』*1が浮かんだのでこちらの動画をご覧ください。

①舞台は田舎の村の収穫祭。心臓の弱い村娘ジゼルは、母親に止められながらも村に来た貴婦人にぜひ踊ってみせて、と言われて踊る、というような場面。

心配そうなお母さんに対して、友達と笑顔を交わしたり、心臓が弱いというのもあってか緊張しているようにも思えるけど嬉しそうに飛び跳ねたり、自分もみんなと同じように踊れる喜び全開! のかわいい村娘。

 

② 貴族の男の裏切りが発覚する場面。

 ①と同じ人です。あんなに楽しそうに踊っていた女の子が狂乱し息絶えるまで。2:15あたりに分かりやすいマイムが入っています。左手の薬指を指し「私は彼と婚約している」「私だって彼と結婚の約束をした!」というやり取りが行われています。

恐ろしいのがこのあたりから。それまで不穏だった音楽が穏やかな曲調に変わるのと対照的に、ジゼルの混乱と悲しみと狂気が表現されます。指を2本揃えて立てるマイムは「誓い」を表すのでこことかは駆け寄ってる貴族の男(アルブレヒト)が誓いを破ったことを後悔してジゼルを抱きしめようとしているように見えますが、ジゼルの目には今のアルブレヒトすら写っていない。

ジゼルも名作なので話すと長くなりますが、私が皆さまに訴えたいのは表情はもちろん、踊りの中での手の差し出し方、首の角度、ジャンプの着地、歩き方など、全身で演技をしているということです。

場面と役にもよりますが、一つ一つの動きには意味があって、それらが連なって物語を作っています。

 

ディヴェルティスマンという概念

ディヴェルティスマン=余興 という意味のフランス語です。バレエにおいては、物語の筋に直接関係なく挟まれる踊りのことを言います。広場で踊る若者とか、収穫祭で踊る村娘とか。どこからがディヴェルティスマンかといわれるとちょっと私ははっきり答えられないのですが許して

ガラ・コンサートなどで単品で踊られるものも多いので、鑑賞に慣れるとこれも楽しいんですが……ストーリー進行の面からみると話が脇道にそれているわけで、ディヴェルティスマンがあることによって「今何してるところ?」となって話を見失いそして眠る……という事態が起きがちなのでは……と経験上思います。

『眠れる森の美女』の3幕はディヴェルティスマンの連続です。ディヴェルティスマンの花火大会です。次から次へと踊り始めたら、要するにお祭りなんだなと思ってもらうのが一番分かりやすいと思います。

 

ディヴェルティスマンに限らず、クラシック(古典)バレエというだけあって掘れば掘るほど解説が出てくるので、詳細な解説されてもかえって眠くなると思うので! とにかく楽しく見てもらうのが一番です!

 

 

 

ここまでに1700文字かかりました。

これから『眠れる森の美女』の話を始めますが、もう十分な気がしてきたので、以下、おまけです。

 

 

『眠れる森の美女』とは

『眠れる森の美女』というお話は多くの方がご存知かと思います。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』と並ぶチャイコフスキー三大バレエの一つで、バレエ作品としての初演は1890年、ロシアのマリインスキー劇場で行われました。1959年にディズニーでも映画化されていますね。元々はフランスの民話だそうです。

 

大まかなストーリーは、

 

オーロラ姫生まれる→育つ→眠る→王子来る→起きる→祝う

 

です。一本道シナリオです。

 

本編のあらすじ

プロローグ

プロローグだけ解説が長いのですが物語の前提部分なのでがんばって読むか思い切って飛ばしてください。

とある国にめっちゃかわいいお姫様が生まれた!!

めちゃかわ姫こと「オーロラ姫」の誕生に浮かれる王宮。これは祝福しなければ、ということでリラの精*2を筆頭とする妖精達が生誕祭に招待されます。優しさの精元気の精鷹揚の精呑気の精勇気の精

妖精達がオーロラ姫の誕生を祝福し、それぞれが司る資質を授けます。

その妖精たちの踊り(ヴァリエーション*3)が最初の見どころです。

踊り始める前にオーロラ姫を祝福する仕草が入っています。上述の通り、セリフがないかわりに、意味が込められている動きはたくさんあります。

舞台の端っこで演技してたりもします。真ん中以外も見てみてね。

たくさんの妖精に祝福され、オーロラ姫はさぞかし素晴らしく育つことでしょう。めでたしめでたし。

 

ところが。

 

慌てて駆け出してくる侍従。何やら招待客リストを見て頭を抱えています。

(ここからプロローグ終わりまでずっとお芝居要素強くて楽しいよ!)

意を決して国王の前に跪き、招待客リストを差し出す侍従。何だ何だとリストを読む国王。

国王「これお前……!!!! あかんやつやないか!!!!!」

ブチ切れする国王に平謝りする侍従。内容を知って倒れそうになる王妃(産後すぐで人前に立ってること自体しんどいと思う)。

そう、招待客リストには一人だけ名前が欠けていたのです。

それが悪の精・カラボス。

一人だけ招かれなかったことを知ったら絶対激おこ間違いなし、これが鷹揚の精だったら「かまへんよ~気にせんといて~」で済ませてもらえたのに……

いや頭抱えてる場合じゃない、どうするどうする、と言っているところへ、不穏な音楽と共に、手下を引き連れたカラボスが現れます。

 

「めでた事だしワンチャン許してくれるかも」と思っていたかもしれないポンコツ侍従に詰め寄ったり、優しさの精呑気の精を指して「あんたら楽しそうに踊りよって何やのうちら仲間はずれにしといていい気なもんやな」と八つ当たりしてみたり、国を滅ぼさんばかりの激おこ。小さな妖精達は怯えて縮こまるばかり。

しかしリラの精たち6人の妖精は怯みません。カラボスを囲み、どうか許してあげて、誰にでも過ちはあるものです、と。

「ちゃんと招待されて楽しそうに踊ってたあんたらが言う!?」

とカラボスさらに激おこ。

 

カラボス「オーロラ姫は16歳の誕生日に、糸紡ぎの針に指を刺して死ぬ。そういう呪いかけとくから!!!!」

リラの精「いいえ、そんなことはありません。姫は美しく健康に育ちます」

カラボス「育ったとしても16歳の誕生日に死ぬ。絶対死ぬ!!」

リラの精「そんなことは起こりません! あなたの呪いを完全に打ち破ることはできないけれど、私が魔法をかけます。姫は糸紡ぎで指を刺しても、ただ眠るだけ。100年間眠り続けるだけ」

カラボス「ん~~~~~覚えてらっしゃい!!!」

 

そしてカラボスは呪いをかけて王宮を去ります。馬車で。馬車かな……なんか魔法で動いてるっぽい乗り物……

このリラの精とカラボスのやり取り、もちろんセリフは一切なく、マイムで全て表現されます。

 

何も知らずに眠る、かわいいかわいいオーロラ姫。カラボスがかけた呪いを優しく振り払うように、妖精達が祝福を続け、プロローグは幕を閉じます。

 

参考:糸紡ぎ

www.si.edu痛そう

 

第1幕

オーロラ姫、16歳の誕生日!

リラの精が言ったとおり、美しく健康に、5人の妖精が授けた資質をもって育ったオーロラ姫。

ちなみに糸紡ぎは国王が国内使用禁止にしました。

この時代で16歳といえばそろそろ結婚相手を選ぶ時期です。国王が「良さそうなのをピックアップしたから、好きな相手を選びなさい」とオーロラ姫に促し、オーロラ姫が求婚者達と踊るのが有名なローズアダージオ

ローズアダージオといえばしんどい、しんどいといえばローズアダージオ。最もしんどい場面が、片足で立ち続けながら求婚者の手をとるところ。

プロならこれぐらいできるんちゃう? と思ってしまいますが、100m全力疾走した後に1分間片足でつま先立ちしてみたらなんとなくヤバさが分かると思う。

でもかわいいの。しんどい踊りって見てる分にはめっちゃかわいいの。技巧的なことだけではなく、オーロラ姫の愛らしさを存分にお楽しみください。

 

場所は変わって宮廷のお針子ちゃんの部屋。

考えてもみてください。大量生産の既製品を購入する現代の平民と違って、昔の貴族は布から、なんなら糸レベルからお仕立てしているわけですよ。そんな時代に「糸紡ぎ禁止!!」っていきなり言われても仕事できんやん。

しょうがないから姫が絶対触らないところだけで扱おうね、と16年間やってきたであろうお針子ちゃん、運悪く侍従に見つかってしまいました……

国王の前にお針子を引っ立てる侍従。

侍従「陛下、ご覧ください、糸紡ぎです! この者たちは陛下が禁止なさった糸紡ぎをこっそり持っていたのです! 私が責任を持って打首に致します」

国王「何ということだ! お前も打首だ!」

侍従「えっ!?」

そりゃそうだ。誰のせいで呪いがかけられたと思っているんだ。

結局、オーロラ姫は糸紡ぎの針に指を刺してしまいます。高笑いするカラボス。でもリラの精は強かった。6人がかりですし……

オーロラ姫は命を落とすことはなく、お城まるごと、静かに眠りにつくのでした。 

 

第2幕

長い眠りについて100年、蔦が絡まり忘れ去られたお城。

そこへ現れる一人の王子。名をデジレと言います。

リラの精に導かれ、オーロラ姫の幻影を追って姫の元へ向かいます。そして当然邪魔してくるカラボス。100年という時間は妖精にとっては体感2年くらいなんだと思います。

何やかやカラボスの妨害を打ち破り、デジレ王子はついに姫の元へ。

王子がそっと口づけると、姫は目覚め、一緒に眠りについていた国王、王妃たち、国の人々も100年の眠りから解放されます。

交響曲の第2楽章がだいたい静かなのと同じかどうかは知らないのですが2幕ってだいたい音楽も踊りもゆったりしていて眠気を誘ってくる……その代わり主要なダンサーがずっと踊ってるのでがんばって起きてて!!

 

第3幕

100年の眠りから目覚めた喜びに湧く王宮。リラの精とその子分や金銀宝石の精から、様々な童話の登場人物達までがオーロラ姫達の目覚め、そしてオーロラ姫とデジレ王子の結婚を祝いに駆けつけます。

そうです、3幕は結婚式なんです。

幕開きからポロネーズに乗って招待客が登場する、3幕の華やかさを象徴するような場面です。

音楽もキラキラしていて楽しい。チャイコフスキー天才……チャイコフスキーより後の時代に生まれて良かった……

さてここからが ディヴェルティスマンの連続! 『眠れる森の美女』クライマックスへと向かっていきます。

赤ずきんにシンデレラ、誰もが知っている童話のワンシーンが次々と繰り広げられ、まるで豪華な絵本をめくっているよう。

有名な童話の登場人物ばかりなので、出てきた瞬間に何のお話か分かると思います。

バレエ知ってる人の中では青い鳥のグラン・パ・ド・ドゥがめちゃ有名なのですが、知らないと本当に「誰……?」ってなるので脚注に書きます。男性ヴァリエーションが身体能力カンストなのでお見逃しなく。*4

 

そしてオーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥ!*5

 

童話の登場人物たち、妖精たちに祝福されて、今度こそめでたしめでたし。 

 

 

……というお話だと私は思っていますが、言葉がないことによって物語の解釈が広がるという面もあると思いますので、以上の文は全て忘れて直接お楽しみ頂けましたら幸いです。

 

あと3日!! がんばります!!

 

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*1:『ジゼル』…純真な村娘が貴族の悪い男に弄ばれる話

*2:リラ…ロシアでは知恵を表す花の名前

*3:簡単に言うとソロ

*4:ここで言う『青い鳥』とは、チルチルミチルのことではなく全く別の童話です。キャラクターとしては、たくましい王女フロリナと青い鳥に姿を変えられた王子(王?)。分かりやすい解説が見つかりましたのでこちらをご参照ください→https://itosachi.com/blog-entry-aoitori.html

*5:男女2人で踊るやつ。2人で踊るアダージオ、1人ずつで踊るヴァリエーション、2人で踊るコーダの4パートで構成される。